8月29日の朝、甲子園クラブハウスの一室に呼ばれた。「タイガースでユニホームを脱いでいただきたい」。球団幹部から告げられた。水面下でのいわゆる「下交渉」はなし。大減俸を受け入れての現役続行など、他のプランが提示されることもなかった。
誤解のないように補足すると、鳥谷は最初からどんな提示を受けても納得する覚悟でいた。5年契約の最終年。年俸に見合う成績を残せていないのは誰よりも自身が一番痛感していた。
「もし必要とされなくなって契約を切られるなら、それは仕方がない。契約するかしないかは球団が決めることだから」
結果、提示は事実上の戦力外通告。勧告された通りに現役引退を選ぶか、他球団での現役続行を目指すか。「自分で決める」という信念を貫くならば、後者を選ぶ他に道はなかった。
(中略)
自身で引き際を定められる選手は、プロ野球界の中でもほんの一握りしかいない。鳥谷にはもちろん、その資格がある。
「野球を辞めるかどうか、最後ぐらい自分で決めたい。本当にそれだけ。それで、もしどこからも声がかからなくて辞めることになったとしても、自分の決断だったら後悔はない」
(中略)
鳥谷敬の野球人生は他の誰のモノでもない。「まだ終われない。もう1度、勝負して終わりたい」。それが・・・・・
淋しい