権藤博
阪神ドラフト2位の井上広大外野手(19)がプロ初の1軍昇格日に「7番・右翼」でスタメン出場し、球団では68年の川藤以来52年ぶりとなる高卒新人野手のデビュー戦先発出場を果たした。
◇ ◇ ◇
井上は面白いよ。それは別格のデキだった大野雄が、9球中1球しか真っすぐを投げなかったことでも分かる。本来ならプロの格の違いを見せるべく、もっと真っすぐで勝負してもいい。それが恐らく打席での構えや雰囲気を見て、正直にいけばやられるかもと感じるものがあったのだろう。
ほとんどスクリュー系の落ちる球。でも井上もどんどん積極的に振っていった。5つ空振りだけど、いきなり1軍に来て重圧もある中、簡単にバットを振れるもんじゃない。しかも相手はリーグを代表する大野雄ですよ。当たらなかったけど振れる。振れるのは打者にとって一番大事なこと。まだ高卒1年目なのに、ファームで4番を打って2冠を行くだけのことはある。
スイングもバットを立てているから大したもの。ヘッドが走って、内から最短距離で出るから強打できる。イチロー
(中略)
この日の大野雄と阪神打線は、失礼ながらプロと高校生が対戦しているほど、力の差を感じた。その中で何とか勝負に持って行っていたのは、近本、大山、小幡、そして井上ぐらい。1軍レギュラーがそれぐらい苦戦した中で、井上は堂々とスイングした。もちろん、明日以降も使い続けるべき。大物になる・・・・・
金村義明
井上は無安打ながら“超非凡”なものを見せた。特に1打席目だ。ツーシームで空振り三振だったが、球界NO1左腕・大野雄と初対決で一番速い直球にタイミングを合わせて振り切っていた。それはなかなかできることじゃない。
(中略)
私も高卒1年目を振り返ると、金縛りにあったみたいに構え遅れて、思うように振れなかった記憶がある。あの長嶋茂雄さんもデビュー戦で金田さんに4連続三振した。井上は今後も安打をほしがらず、きょうのようなスイングを貫くべき
(中略)
2軍戦も何度か見たが、右方向に打てるうまさを持ち合わせ、大山に続く右の長距離砲として期待できると確信・・・・・
履正社・岡田監督
【履正社・岡田監督に聞く】
――昇格の連絡は。
「朝に本人からありました。『チャンスがあれば積極的に振っていけよ』と言いました」
――テレビ観戦。全3打席を見て。
「チェンジアップに対して全然合っていなかったですね。いつか真っすぐが来ると思って待っていたんだろうけど、相手バッテリーに読まれてましたね」
――1打席目はファーストストライクから振りに行く姿勢をみせた。
「それでも最後の打席の1球目は見逃しましたから。(3打席目は)打てる球はあの初球しかなかったと思う。なかなか思うようにいかなかったと思うし、いろいろ工夫が求められますね」
――リーグ屈指の投手、大野雄との対決。
「超一流の投手なんで、打席に入って見るだけでも勉強になったと思う。だからこそ(中略)
――これほど早くのデビューを予想していたか。
「全然予想していなかった(中略)
――履正社出身のT―岡田、山田哲に続く活躍を願う。
「それぐらい(中略)
――明日以降に求めること。
「あくまでテレビでですけど、今日の3打席を見てどちらかというと引っ張りにいっているように見えた。左投手ということもあってアウトコース中心の攻め方をされていたので、もう少しセンターから右よりの意識を持ってほしいかなとは思う。何かしらの変化をみたい」
――高校時代から自分で工夫して打撃を考えていた。
「私自体があれせえこれせえとは言わないので。井上の時も(昨年の)選抜で星稜に負けてからどう奥川(現ヤクルト)に対応するかを考えさせてやっていた。あのときも夏に初対戦だったら打てていたかどうかは分からない。プロの世界でも今日の3打席を経験して、これからトップレベルの選手と対戦していくなかでどう考えてやっていくかですね」 ・・・・・
内田雅也
「巨人軍は永久に不滅です」のスピーチも車内で聞いた。
そんな国民的スターもデビューは4打席4三振だったと多くの級友が知っていた。後の400勝左腕、国鉄(現ヤクルト)。金田正一にきりきり舞いさせられた。
その夜、長嶋は眠れなかったそうだ。<悔しさと恥ずかしさがこみ上げて何度もガバッと布団をはねのけ、闇の中でバットを振った>。2009年に出した著書
(中略)
この夜、阪神の大型新人、井上広大が1軍デビューを果たした。昨年夏の甲子園大会で優勝した履正社の4番。将来の4番候補である。
当代随一の左腕、大野雄大に変化球を3球とも空振りして三振。速球に一ゴロ。3球三振。トップレベルの力を感じたことだろう。この経験をどう生かすかだ。今後の姿勢にかかっている。・・・・・
おかん
2軍で英才教育を受けてきた。ウエスタン・リーグで61試合に出場し、打率2割2分、8本塁打、32打点をマーク。平田2軍監督のもとで全試合4番起用され、本塁打、打点で2冠の成績を残した。13日夜に初昇格を伝えられた。「すごくビックリしました」。母貴美さんには電話で報告し、「頑張ってきーや」と、優しく背中を押された。
矢野監督は合流した井上に「今日からがスタートラインだよ」と声をかけた。指揮官は結果もさることながら「チームとして大事にしている全力疾走や、将来ホームラン王をとるけど凡打後の走塁もすごいよねとか。そういう部分をしっかり意識する選手になって。スケールの大きな選手になってくれれば」と期待を寄せた。
試合前には本塁打リーグトップの大山から「小さくはならないように」と、アドバイスも受けた。「その(スイングの)中で、どう対応していくかを練習で突きつめていきたい」と井上は言う。大きく成長していくため、さらに高いレベルで技術を吸収する。シンデレラストーリーは始まったばかり。虎の将来を担う19歳
(中略)
▽井上の母貴美さん(自宅でテレビ観戦)「課題もたくさん見えたと思うので、今日はすごくいい経験になったと思います。がんばってほしい、それだけですね。ここからだと思います」・・・・・
平田2軍監督
「今日も話したんだけど、今調子いいしね。思い切って三振してこい、当てに行っちゃだめって」「もう、思い切って打てなんて言わない、思い切って三振してこい」と繰り返し・・・・・
高原寿夫
ルーキー井上広大がデビューした。初対戦は防御率12球団トップの大野雄大。これはなかなか厳しい-。そう思った試合前、ある出来事を思い出した。
(中略)
同点で9回裏無死満塁のピンチを迎えた。
ここでオリックス指揮官・仰木彬と投手コーチ・山田久志(日刊スポーツ評論家)は高卒ドラ1新人の平井正史をプロ初登板のマウンドに送ったのだ。
「高卒ルーキーをこんな場面でとは…」。驚く目の前で150キロ超のストレートを投げた平井は村上隆行を空振り三振に切った。しかし大島公一に犠飛を浴び、サヨナラ負けを喫した。
黒星はつかないがデビューがサヨナラ敗戦。がっくりしていた平井はマネジャーから「監督が呼んでるで」と伝えられた。「何を言われるのか」。おそるおそる監督室を訪ねた。
仰木は「おお。よう投げたな。これで飲んでこい」。そう言い“監督賞”10万円をポンと渡してきたという。平井は翌95年、抑え投手として優勝に貢献。その後、20年以上もプロでメシを食った。
「でも負け試合で賞金をもらったのはあれが最初で最後
(中略)
井上にとっては厳しいデビューとなった。
それを気の毒などとは思わない。1軍戦力になろうと思えば誰が相手でも向かっていかなければならないからだ。正直、まだ力不足ということだ。これを糧に頑張ればいい。
思うのは矢野は井上に「ええ三振やん。栄で遊んでこい」とでも言って“監督賞”を出したろうか、ということだ。コロナのご時世ではそれも無理か。気持ちだけは、そんな指揮官であってほしい・・・・・
いいね!この大物感。これからどうアジャストしてくるか見もの。小幡もまだまだ早いって思ってたけど、打席でも日々成長を続けているしね。金村さんが言うように空振りできるのも才能であり技術。井上はホームランバッターとして小さくまとまらないようにフルスイングして欲しい。矢野さん、今日もスタメンでお願いやで!