「今だ!」とばかりに腕にしがみついて引き止めると、わたしの姿をまじまじとごらんになってひとこと、「俺ら、ハロウィンやな」。そうおっしゃってガハハと笑われた。監督はタキシード、そしてわたしは着物だったのだ。この日のために星柄の帯に星柄の草履を新調して。「監督をお祝いしたくてオシャレしてきました」と言ったら、優しく「そうかそうか」と目を細められた。こんなとき、お父さんの顔になる。それにしても、ハロウィンて!「七五三」とか「仮装大会」とかって出がちだけど、70歳でハロウィンてスッと出る!? 若っ! 本当にいつも言葉のセンスが粋なんだなぁ。(中略)
ビールかけが終わったころだったか、監督のお母さんが亡くなられたことを知った。翌日、監督におめでとうを言いたいけど、お母さんのことがあるから「おめでとう」という言葉はどうだろう…と逡巡し、クラブハウスから出てきた監督に「優勝おめでとうごさいます」と苦肉の策で「優勝」をつけて言った。すると突如ギューッと抱きしめられて、頭をくしゃくしゃにされた。そう。前日サヨナラ打を打った赤星憲広選手がされたこととまったく同じことを、わたしにもしてくれた。あぁ、考えてること、すべてお見通しなんだなぁと思った。こちらが気遣っているつもりが、それ以上に気遣ってくれるのだ。
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星野監督に頭をくしゃくしゃっとされた選手は
みんな子供のように笑ったり、涙を浮かべたりして、
それを見てよくもらい泣きをしていました。
本当に選手たちの優しいお父さんのような方でしたね。